
柏木RADIO
2023/01/10
「名前をつけると安心する」
みなさんおはようございます。ライティングオフィス 柏木サイエンスのライター・柏木です。兼業ライターをしています。本業は会社員なのですが、パラレルキャリアの一環としてライター業を兼業しています。ASD、自閉症スペクトラムの当事者です。どうぞよろしくお願いいたします。
突然ですが、「名前をつけると安心する」ということって往々にしてありますよね。発達障がい者がしばしばおっしゃる、「診断が下りたときに安心した」という言葉が典型的だと思うんですよね。
今日は「名前をつけると安心する」というテーマで、私が図書館で調べてきた体験を紹介したいと思います。
これまで私はしばしば「焦り」を感じてきたんですね。主治医にも、心理師の先生にも、「焦り」という言葉で自分の感情を表現してきたんです。
ところがある日、これも図書館の本なんですけど、『独学大全』(読書猿先生)を読んだことをきっかけに、「ちょっと調べてみよう」と思い立ったわけです。『独学大全』には図書館の本格的な利用法が事細かに書いてありますからね。
まず百科事典を引きました。平凡社ですね。「焦り」をまずは調べたのですが、平凡社百科事典に「焦り」は掲載されていませんでした。それでちょっと考えて、おそらく百科事典には地理とか天体とか物理的客観的に存在する事象が載ってるんだろうという仮説に至りました。「焦り」は主観的な感情ですからね。
次に『心理学辞典』(丸善)で焦りを引きました。そこにも載っていなかった。焦りという言葉は日本語だけれども、専門的な言葉ではないんだなあという考えに至って、「焦燥感」で引いてみました。すると載っていた。
焦燥感とは、「性急で怒りっぽい気分」と説明されていたんですね。ほーんと思いました。これまでしばしば「焦燥感に悩まされていて……」とか説明してたんですけど、怒りではないから、誤用してたんだなあとわかったわけですね。
じゃあこの焦りを説明する専門用語はなんだ、と思いまして。パニックか? と考えて、パニックを心理学辞典で引いてみたわけです。するとパニック単体では載っていなくて、「パニック発作」で載っていた。「突如生じる強い恐れ、恐怖、不安……息が詰まる感覚、心拍数の増加……云々」と説明されていたわけです。PTSDの症状としてもあらわれると書いてあった。それで、ああ自分がしばしば感じる感情というのは「パニック発作」であったんだなあと納得したんですね。自分の症状が「パニック発作」とわかって、ひどく安心したわけです。「名前がついて安心する」という現象を実感したわけですね。
考えられる反論として、「それは柏木だけで、一般的な人はパニック発作などとわかったり、診断名がついても落ち込むだけだろう」といった反論が考えられます。でも、私はそれは違うと思うんです。もし「パニック発作なんて言われたら落ち込むよ。普通は。」という人がいたら、それは言葉を「イメージ」だけで考えてるからなんですね。「パニック」という響きだけ聞いて、なにか錯乱して、喚き散らしているような状態を想像している。加えて、言葉の意味を調べてないし、吟味してないんですね。まあ怠慢ですよね。しっかり図書館で専門辞書を引いて、パニック発作の記述を読んで、正しく理解すればおのずとわかるはずなんです。それをしないでイメージでものを言うのは怠慢ですよね。
今回は、「名前がついて安心する」という現象をご紹介しました。図書館で調べることはますます積極的に行って行こうと思います。
今回の参考文献は、『独学大全』(読書猿先生)、『心理学辞典』(丸善)、『心理学総合辞典』(朝倉書店)です。
それではお聞きいただきありがとうございました。